OO中心戯れ言ばっか。ハム至上主義で刹受け中心カオスブログ。

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一応VD本編はこれにて完結です。
ハムさんが最後変態なので注意。
一応VD本編はこれにて完結です。
ハムさんが最後変態なので注意。
走って走って。
何も見えなくなるくらい走って。
視界が流れ、消え去る位に。
気付いたら鉄の扉を押し開けていた。
途端に風吹き荒れる中に放り出される。
視界一杯に広がる、オレンジの光な目を細めた。
とにかく、空以外何も見たくなかった。給水塔によじ登り、ぺたりと座り込む。
何も考えたくないのに、先程の光景がフラッシュバックして。
こんなの、予測済みだったのに。
いや、こうなると知っていたからこそこれを渡そうと思っていたのに。
膝を抱えて、ただ空を見上げた。風にバタバタとスカートが煽られたが、気にする余裕なんてなかった。
わかっていたのに、悔しかった。
ルイスの言う通り、グラハムは山とチョコを貰っているのだろう。刹那のものよりも可愛く、美味しく、甘い菓子を。
あの普段は気色悪いとしか思っていなかった笑みを、少女達に振り撒いて。
結局刹那のことなんて、一時の気の迷いだったのだ。その証拠にグラハムは最近来なかった。
腹痛に倒れた刹那を助けたのも、ただ困っている生徒を助けたにすぎないのだ。
あの腕の暖かさも、頬に押し付けられた湿り気も、万人に与えるものなのだ。欧米人はスキンシップの取り方がオーバーだからだ。
悔しい。あんな男に振り回されて。心をこんなにも簡単に乱されて。
いや、悔しい?
広がる空と反対に、ずんずんと胸に沈殿するこの暗いものは、果たして“悔しい”という感情なのだろうか。
ぎゅっと膝を抱えて、不可解な感覚にひたすら耐えた。
そうでもしなければわけわからぬものに押し潰されてしまいそうな位、胸が苦しい。
ちらりと鞄から覗いた青いフタのタッパーを取り出す。
これを捨てれば、この感情もすこしは晴れるだろうか。
そう唐突に思い、刹那は手を振り上げた。
「刹那?」
びくり、と肩が反射的に震える。
とっさに振り上げていたタッパーを背に隠した。
視線を恐る恐る下げると、両手にぱんぱんの紙袋をぶら下げているグラハムがいた。
細やかな金髪が、風にゆったりと掻き混ぜられている。
「・・・エーカー、先生?」
何故、こんな所に。口にしようとしたが、やめた。
彼が紙袋をとさりと置いて、給水塔の梯を登り始めたからだ。
嫌なタイミングに・・・!
だが給水塔の上にいる以上逃げ道はなく、退役軍人らしくあっという間にグラハ
ムは刹那の近くに立った。
「・・・おい」
「すまない、少し匿ってくれないかな」
困惑する刹那だったが、グラハムの真摯な顔とバタバタという上履きの音に意識を戻す。
「あれ?エーカー先生ここにいるはずだけど・・・」
「見間違いじゃない?」
ちらりと視線をうかがえば、高等部の女子が鮮やかな箱を持ってうろうろしている。
此方には気付いていないようだ。
「手前で違う部屋入ったのかも」
「そうだねー」
しばらくすると、再びバタンと鉄扉を閉める音が聞こえた。
傍らの男をみると、いつの間にか刹那の隣に腰掛け柄にもなくため息をついている。
「・・・いいのか」
「ああ・・・申し訳ないが、もはや手持ちの紙袋では足りないのだよ」
朝からあんな調子だったのか。
世の男子が羨ましがる立場も、過剰すぎると大変らしい。もっとも異性の刹那には理解し難いものではあるが。
改めて視線を下の紙袋をみる。溢れんばかりに包みやらなんやらが詰まっていた。
その光景に一層胸の奥に鈍い痛みが走るが、グラハムは気にしていないのか話し続ける。
「少しずつ食べてはいるのだが・・・口の中が既に甘くて。当分甘味は摂取したくないな」
「・・・それは災難だったな」
表面上では平静を取り繕ったが、内心はかなり心乱れていた。声が震えずにすん
だのが幸いである。
幸いというべきか、一応甘さ控え目に作ってはある。(というかそうなってしまった)だが、こんな状況のグラハムに渡しても迷惑なだけであろう。
ただでさえあれだけのチョコやらなんやらを処理するのも大変だというのに、こんな堅くて可さして美味でもない、さらに救いようもなく愛げのないものを貰っても、嬉しいくもなんともない。処理すべきものが増えるだけだ。
やはりこれは闇に葬ろう。いや、そうするべきだ。
菓子は失敗だったとそっと後手にタッパーをもつ。
「・・・用は済んだな。俺は帰る。」
いいようもない思いが、喉にまで迫り上がって来ていたが、必死でこらえた。
今グラハムの顔を見たら、その思いが堰をきってしまいそうで。
鞄にそっとタッパーをしまい、給水塔からひらりと飛び降りようとした。
が。
「待ちたまえ!」
急降下を始めるはずだった刹那の体は、グラハムの腕によって阻まれた。
あの時と同じ、熱い手。
胸に、今までで一番重くズキリとした痛みが走る。
「・・・なんだ」
「鞄に隠したものは、何かな」
目を見張る。いつ気付かれた。
驚きで硬直する刹那の体が反転され、肩を痛くはないが、がっしりとグラハムに
捕まれた。
これでもう、逃げることは出来ない。
隠そうとしていた痛みが、グラハムを前にしてつきつけられる。殴られているような鈍痛から、切り裂かれんばかりの直接的な痛みになった。
苦しい。
恐る恐る視線をあげれば、真っ直ぐに見つめてくる碧の瞳。
その直線的な瞳に耐えきれなくなり、刹那は視線を地に落とした。
「別に、お前には関係ない」
「本当に?」
ああ、この男本当は何もかもを見抜いているのではないのだろうか。
ただ、必死でなにかを堪えている刹那の姿を嘲笑いたいだけなのではないだろうか。
逃れられない視線を前に、自然と唇を噛み締めていた。
人の手を借りてもこんなものしか作れない悔しさと、自尊心が邪魔をする。
沈黙が風となり、二人の間を駆け抜けていく。
いつものように、話しかけてくれればいいのに、グラハムはじっと答えを待って
いる。
「甘いものは当分いらないのだろう」
耐えきれなくなった刹那が先に折れ、蚊の鳴くような声で呟く。
「どうせあんたは山と貰ったのだろう?なら、これはあんたに関係ない」
この期に及んで邪魔をする高いプライドを恨めしく思う。ここでいっそ素直にな
れたら、不可解な感情をぶつけられたら、どんなに楽になれることか。
壊滅的なまでにない女らしさと愛想のなさは今までなくてもいいと自ら切り捨ててきたものなのに。
「だから離せ」
そういって振り払おうとするも、思った以上に肩に入れられた力は強く、それは適わなかった。
「私に...くれるのだろう?」
はっと顔を上げれば、綺麗な翠玉がじっと覗き込んでいた。
「もういらないのでは...」
「君のならば別格だよ。」
そう言って、グラハムが不意に手を放した。かと思うと、手に持っていたはずの
鞄がいつの間にか宙に浮かんでいた。
「失礼」
返せ、という前にグラハムの手は鞄に潜り込み、タッパーを取り出した。夕日に
照らされてタッパーのふちがちらりと輝く。
「な、返せっ!」
「君が作ったのかい?これは驚きだ」
躍起になって手を振り回すが、ひょいひょいとかわされてしまう。おまけに、グラハムが半透明のタッパーの中を覗き込んできた。
面と向かって見られると恥ずかしさが倍増する。しかし、もう見つかってしまったことなので否定することも出来ず、うつむくことしか出来なかった。
どんな顔をしているのだろう。これはひどい、とでも思っているのだろうか。
なるべく最悪の事態を想像しようとし、しかし心のどこかで期待しようと疼くも
のがある。
だが、グラハムの行動はどの予想も超えていた。
ぱきり、と何かが砕ける音がする。
え?
視線を上げると、綺麗な口が、不恰好な茶色の塊をかじっているところが見えた。
「うん、甘さ控えめで口直しには丁度いいな。」
ブラウニーを細く、しかし長くしっかりとした指でつまんでいるグラハムが、にこりと微笑んできた。そして実に美味しそうに再び食べ始める。
予想もしていなかった展開に、刹那はただ呆然とバキバキと音を立てて食べるグ
ラハムを見つめていることしか出来なかった。
そうこうしているうちにタッパーの中のブラウニーの数は減っていき、日が随分
と赤みを帯びた光になった頃には、残すところ一本だけになっていた。
「美味しかったよ」
刹那が硬直している中、グラハムはぱかりとタッパーの蓋を閉めなおしていた。
「それ」
「ん?」
「一本残っているが...」
やはり無理して食べたのではないのだろうか。そう不安が残る気持ちで聞くと、
グラハムは「ああ」とこともなさげに話した。
「もったいなくてね、一本保存用に」
刹那から貰えるなんて夢にも思ってなかったのでね。そう付け足し、女子に囲ま
れていたときよりも何倍も綺麗な顔で刹那に微笑みかけた。
こいつ、素でこんなことを言っているのだろうか。
だが目の前で静かに微笑むグラハムの表情には偽りはみられなかった。
胸の中の鉛が、溶けていくような感覚。体が、すっと楽になっていく。
ひいた痛みを埋め合わせるかのように、言葉の意味をようやく理解した刹那は顔に血液が上っていくのを感じた。
「永久保存しなければね、できれば刹那の口がついたものがよかったのだけど」
さらりと変態発言をかますグラハムに体温は最高潮になり、刹那は耐え切れなくなって保存方法を考えているのか隙を見せるグラハムの手からタッパーを奪い取った。
そして電光石火のスピードで中に入っていたブラウニーを口に含む。
「ああっなんということを?!」
「うるさいだまれ変態」
こんなことになるならもっと奴の舌を麻痺させるぐらい甘いものを作ればよかっ
た。
むすっとした顔で情けない顔をしているグラハムを尻目に、ぼりぼりと噛み砕く。
しかしそれにしても硬い。そしてほろ苦い。
よくこんなものを短時間であんなに食べれたものだ、と顔を歪めていると、残念そうに刹那の唇を見ていたグラハムが、悪戯を思いついた子供のように、半月の笑みを浮かべた。
そして咀嚼するのに必死だった刹那の顔に影が落ち、それに彼女が気づく前に口に何かが押し当てられた。
一瞬かち合う、翠と赤の瞳。
「むぐっ?!」
突然のことに思考がおいつかない。
刹那が固まっているのをいいことに、僅かに開いた隙間から、生暖かいものが入ってきた。
未知のものに、刹那はグラハムのスーツを反射的に握ることで耐える。
口内に侵入してきたそれは、周囲を撫で回し、小さくなったココア味の欠片を一
つ一つ、丹念に拾っていく。
息が苦しい。
それを伝えようと強めに彼の肩を叩くと、ようやく湿った音をたてて引き抜かれた。
酸欠でふらつくと、すかさず彼の腕が伸び支えられる。
「危なかった・・・」
唇を舐めつつ、割りと真剣な顔のグラハムがいた。
呼吸をするので必死だった刹那だが、侵入してきたのは彼の舌だったことに気付かされ、単なる酸欠だけではない理由で紅潮する。
今、何をした?
「誰よりも嬉しいバレンタインだ・・・特に最後のが」
「死ね変態!」
手に持っていたタッパーをグラハムの顔面に投げつけ、その隙で給水塔から飛び下りる。
信じられない!
口の中を蹂躙してきた彼の感触をリアルに思い出してしまい、刹那は行きとは全く違
う、羞恥心で死にそうだが不快ではない気分で階段を駆け降りていった。
「全く・・・折角いいムードだったというのに・・・」
いきなりディープキスは急ぎ過ぎたかな?
大して悪びれずにそう考えていると、彼女が残したタッパーの中に入っていた白
ナプキンが、ひらりと風に流されていった。
「ん?」
そして、奥底に貼ってある白いメモ用紙に目がいった。
ノートの切れはしのような武骨なものに、消え入りそうな小さな字で文字が書か
れていた。
『このあいだの礼だ』
気付いたら口許が、薄く笑みを作っていた。
そしてそのまま独り、給水塔に座りこんだ。
最初見た時から、心奪われていた。
だが、ここまで彼女が自分の思考を占めてくるなんて。
奥底に貼られたメモを、そっと撫でる。
16の少女に、心をこんなにも奪われるなんて。
久しく感じていなかった感情。フラッグを駆り、あの機体を追い続けた時のような激情に、グラハムはふっと苦笑を漏らした。
『グラハム、もしかしたら彼女は・・・』
先日受けた友の忠告を思い出す。
ああわかっているさカタギリ。
刹那のあの身のこなしは、普通の人間のものではない。本人は隠していたようだけど。
それに、時折見せる鋭い瞳は、少女のものではない。綺麗な世界の裏側を戦っているものの瞳だ。
しかし。
いやだからこそ、彼女にこんなにもひかれているのかもしれない。
「私は本気だよ、カタギリ。」
ここにはいない友に呼びかける。
太陽は既に沈み、青く暗いものが空を覆いつくそうとしていた。
-HAPPY VALENTINE!!-
何も見えなくなるくらい走って。
視界が流れ、消え去る位に。
気付いたら鉄の扉を押し開けていた。
途端に風吹き荒れる中に放り出される。
視界一杯に広がる、オレンジの光な目を細めた。
とにかく、空以外何も見たくなかった。給水塔によじ登り、ぺたりと座り込む。
何も考えたくないのに、先程の光景がフラッシュバックして。
こんなの、予測済みだったのに。
いや、こうなると知っていたからこそこれを渡そうと思っていたのに。
膝を抱えて、ただ空を見上げた。風にバタバタとスカートが煽られたが、気にする余裕なんてなかった。
わかっていたのに、悔しかった。
ルイスの言う通り、グラハムは山とチョコを貰っているのだろう。刹那のものよりも可愛く、美味しく、甘い菓子を。
あの普段は気色悪いとしか思っていなかった笑みを、少女達に振り撒いて。
結局刹那のことなんて、一時の気の迷いだったのだ。その証拠にグラハムは最近来なかった。
腹痛に倒れた刹那を助けたのも、ただ困っている生徒を助けたにすぎないのだ。
あの腕の暖かさも、頬に押し付けられた湿り気も、万人に与えるものなのだ。欧米人はスキンシップの取り方がオーバーだからだ。
悔しい。あんな男に振り回されて。心をこんなにも簡単に乱されて。
いや、悔しい?
広がる空と反対に、ずんずんと胸に沈殿するこの暗いものは、果たして“悔しい”という感情なのだろうか。
ぎゅっと膝を抱えて、不可解な感覚にひたすら耐えた。
そうでもしなければわけわからぬものに押し潰されてしまいそうな位、胸が苦しい。
ちらりと鞄から覗いた青いフタのタッパーを取り出す。
これを捨てれば、この感情もすこしは晴れるだろうか。
そう唐突に思い、刹那は手を振り上げた。
「刹那?」
びくり、と肩が反射的に震える。
とっさに振り上げていたタッパーを背に隠した。
視線を恐る恐る下げると、両手にぱんぱんの紙袋をぶら下げているグラハムがいた。
細やかな金髪が、風にゆったりと掻き混ぜられている。
「・・・エーカー、先生?」
何故、こんな所に。口にしようとしたが、やめた。
彼が紙袋をとさりと置いて、給水塔の梯を登り始めたからだ。
嫌なタイミングに・・・!
だが給水塔の上にいる以上逃げ道はなく、退役軍人らしくあっという間にグラハ
ムは刹那の近くに立った。
「・・・おい」
「すまない、少し匿ってくれないかな」
困惑する刹那だったが、グラハムの真摯な顔とバタバタという上履きの音に意識を戻す。
「あれ?エーカー先生ここにいるはずだけど・・・」
「見間違いじゃない?」
ちらりと視線をうかがえば、高等部の女子が鮮やかな箱を持ってうろうろしている。
此方には気付いていないようだ。
「手前で違う部屋入ったのかも」
「そうだねー」
しばらくすると、再びバタンと鉄扉を閉める音が聞こえた。
傍らの男をみると、いつの間にか刹那の隣に腰掛け柄にもなくため息をついている。
「・・・いいのか」
「ああ・・・申し訳ないが、もはや手持ちの紙袋では足りないのだよ」
朝からあんな調子だったのか。
世の男子が羨ましがる立場も、過剰すぎると大変らしい。もっとも異性の刹那には理解し難いものではあるが。
改めて視線を下の紙袋をみる。溢れんばかりに包みやらなんやらが詰まっていた。
その光景に一層胸の奥に鈍い痛みが走るが、グラハムは気にしていないのか話し続ける。
「少しずつ食べてはいるのだが・・・口の中が既に甘くて。当分甘味は摂取したくないな」
「・・・それは災難だったな」
表面上では平静を取り繕ったが、内心はかなり心乱れていた。声が震えずにすん
だのが幸いである。
幸いというべきか、一応甘さ控え目に作ってはある。(というかそうなってしまった)だが、こんな状況のグラハムに渡しても迷惑なだけであろう。
ただでさえあれだけのチョコやらなんやらを処理するのも大変だというのに、こんな堅くて可さして美味でもない、さらに救いようもなく愛げのないものを貰っても、嬉しいくもなんともない。処理すべきものが増えるだけだ。
やはりこれは闇に葬ろう。いや、そうするべきだ。
菓子は失敗だったとそっと後手にタッパーをもつ。
「・・・用は済んだな。俺は帰る。」
いいようもない思いが、喉にまで迫り上がって来ていたが、必死でこらえた。
今グラハムの顔を見たら、その思いが堰をきってしまいそうで。
鞄にそっとタッパーをしまい、給水塔からひらりと飛び降りようとした。
が。
「待ちたまえ!」
急降下を始めるはずだった刹那の体は、グラハムの腕によって阻まれた。
あの時と同じ、熱い手。
胸に、今までで一番重くズキリとした痛みが走る。
「・・・なんだ」
「鞄に隠したものは、何かな」
目を見張る。いつ気付かれた。
驚きで硬直する刹那の体が反転され、肩を痛くはないが、がっしりとグラハムに
捕まれた。
これでもう、逃げることは出来ない。
隠そうとしていた痛みが、グラハムを前にしてつきつけられる。殴られているような鈍痛から、切り裂かれんばかりの直接的な痛みになった。
苦しい。
恐る恐る視線をあげれば、真っ直ぐに見つめてくる碧の瞳。
その直線的な瞳に耐えきれなくなり、刹那は視線を地に落とした。
「別に、お前には関係ない」
「本当に?」
ああ、この男本当は何もかもを見抜いているのではないのだろうか。
ただ、必死でなにかを堪えている刹那の姿を嘲笑いたいだけなのではないだろうか。
逃れられない視線を前に、自然と唇を噛み締めていた。
人の手を借りてもこんなものしか作れない悔しさと、自尊心が邪魔をする。
沈黙が風となり、二人の間を駆け抜けていく。
いつものように、話しかけてくれればいいのに、グラハムはじっと答えを待って
いる。
「甘いものは当分いらないのだろう」
耐えきれなくなった刹那が先に折れ、蚊の鳴くような声で呟く。
「どうせあんたは山と貰ったのだろう?なら、これはあんたに関係ない」
この期に及んで邪魔をする高いプライドを恨めしく思う。ここでいっそ素直にな
れたら、不可解な感情をぶつけられたら、どんなに楽になれることか。
壊滅的なまでにない女らしさと愛想のなさは今までなくてもいいと自ら切り捨ててきたものなのに。
「だから離せ」
そういって振り払おうとするも、思った以上に肩に入れられた力は強く、それは適わなかった。
「私に...くれるのだろう?」
はっと顔を上げれば、綺麗な翠玉がじっと覗き込んでいた。
「もういらないのでは...」
「君のならば別格だよ。」
そう言って、グラハムが不意に手を放した。かと思うと、手に持っていたはずの
鞄がいつの間にか宙に浮かんでいた。
「失礼」
返せ、という前にグラハムの手は鞄に潜り込み、タッパーを取り出した。夕日に
照らされてタッパーのふちがちらりと輝く。
「な、返せっ!」
「君が作ったのかい?これは驚きだ」
躍起になって手を振り回すが、ひょいひょいとかわされてしまう。おまけに、グラハムが半透明のタッパーの中を覗き込んできた。
面と向かって見られると恥ずかしさが倍増する。しかし、もう見つかってしまったことなので否定することも出来ず、うつむくことしか出来なかった。
どんな顔をしているのだろう。これはひどい、とでも思っているのだろうか。
なるべく最悪の事態を想像しようとし、しかし心のどこかで期待しようと疼くも
のがある。
だが、グラハムの行動はどの予想も超えていた。
ぱきり、と何かが砕ける音がする。
え?
視線を上げると、綺麗な口が、不恰好な茶色の塊をかじっているところが見えた。
「うん、甘さ控えめで口直しには丁度いいな。」
ブラウニーを細く、しかし長くしっかりとした指でつまんでいるグラハムが、にこりと微笑んできた。そして実に美味しそうに再び食べ始める。
予想もしていなかった展開に、刹那はただ呆然とバキバキと音を立てて食べるグ
ラハムを見つめていることしか出来なかった。
そうこうしているうちにタッパーの中のブラウニーの数は減っていき、日が随分
と赤みを帯びた光になった頃には、残すところ一本だけになっていた。
「美味しかったよ」
刹那が硬直している中、グラハムはぱかりとタッパーの蓋を閉めなおしていた。
「それ」
「ん?」
「一本残っているが...」
やはり無理して食べたのではないのだろうか。そう不安が残る気持ちで聞くと、
グラハムは「ああ」とこともなさげに話した。
「もったいなくてね、一本保存用に」
刹那から貰えるなんて夢にも思ってなかったのでね。そう付け足し、女子に囲ま
れていたときよりも何倍も綺麗な顔で刹那に微笑みかけた。
こいつ、素でこんなことを言っているのだろうか。
だが目の前で静かに微笑むグラハムの表情には偽りはみられなかった。
胸の中の鉛が、溶けていくような感覚。体が、すっと楽になっていく。
ひいた痛みを埋め合わせるかのように、言葉の意味をようやく理解した刹那は顔に血液が上っていくのを感じた。
「永久保存しなければね、できれば刹那の口がついたものがよかったのだけど」
さらりと変態発言をかますグラハムに体温は最高潮になり、刹那は耐え切れなくなって保存方法を考えているのか隙を見せるグラハムの手からタッパーを奪い取った。
そして電光石火のスピードで中に入っていたブラウニーを口に含む。
「ああっなんということを?!」
「うるさいだまれ変態」
こんなことになるならもっと奴の舌を麻痺させるぐらい甘いものを作ればよかっ
た。
むすっとした顔で情けない顔をしているグラハムを尻目に、ぼりぼりと噛み砕く。
しかしそれにしても硬い。そしてほろ苦い。
よくこんなものを短時間であんなに食べれたものだ、と顔を歪めていると、残念そうに刹那の唇を見ていたグラハムが、悪戯を思いついた子供のように、半月の笑みを浮かべた。
そして咀嚼するのに必死だった刹那の顔に影が落ち、それに彼女が気づく前に口に何かが押し当てられた。
一瞬かち合う、翠と赤の瞳。
「むぐっ?!」
突然のことに思考がおいつかない。
刹那が固まっているのをいいことに、僅かに開いた隙間から、生暖かいものが入ってきた。
未知のものに、刹那はグラハムのスーツを反射的に握ることで耐える。
口内に侵入してきたそれは、周囲を撫で回し、小さくなったココア味の欠片を一
つ一つ、丹念に拾っていく。
息が苦しい。
それを伝えようと強めに彼の肩を叩くと、ようやく湿った音をたてて引き抜かれた。
酸欠でふらつくと、すかさず彼の腕が伸び支えられる。
「危なかった・・・」
唇を舐めつつ、割りと真剣な顔のグラハムがいた。
呼吸をするので必死だった刹那だが、侵入してきたのは彼の舌だったことに気付かされ、単なる酸欠だけではない理由で紅潮する。
今、何をした?
「誰よりも嬉しいバレンタインだ・・・特に最後のが」
「死ね変態!」
手に持っていたタッパーをグラハムの顔面に投げつけ、その隙で給水塔から飛び下りる。
信じられない!
口の中を蹂躙してきた彼の感触をリアルに思い出してしまい、刹那は行きとは全く違
う、羞恥心で死にそうだが不快ではない気分で階段を駆け降りていった。
「全く・・・折角いいムードだったというのに・・・」
いきなりディープキスは急ぎ過ぎたかな?
大して悪びれずにそう考えていると、彼女が残したタッパーの中に入っていた白
ナプキンが、ひらりと風に流されていった。
「ん?」
そして、奥底に貼ってある白いメモ用紙に目がいった。
ノートの切れはしのような武骨なものに、消え入りそうな小さな字で文字が書か
れていた。
『このあいだの礼だ』
気付いたら口許が、薄く笑みを作っていた。
そしてそのまま独り、給水塔に座りこんだ。
最初見た時から、心奪われていた。
だが、ここまで彼女が自分の思考を占めてくるなんて。
奥底に貼られたメモを、そっと撫でる。
16の少女に、心をこんなにも奪われるなんて。
久しく感じていなかった感情。フラッグを駆り、あの機体を追い続けた時のような激情に、グラハムはふっと苦笑を漏らした。
『グラハム、もしかしたら彼女は・・・』
先日受けた友の忠告を思い出す。
ああわかっているさカタギリ。
刹那のあの身のこなしは、普通の人間のものではない。本人は隠していたようだけど。
それに、時折見せる鋭い瞳は、少女のものではない。綺麗な世界の裏側を戦っているものの瞳だ。
しかし。
いやだからこそ、彼女にこんなにもひかれているのかもしれない。
「私は本気だよ、カタギリ。」
ここにはいない友に呼びかける。
太陽は既に沈み、青く暗いものが空を覆いつくそうとしていた。
-HAPPY VALENTINE!!-
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FIRST
「非晶質。」にようこそ。
ここはグラハム・エーカー至上主義グラ刹になりそうな予感のする二次創作腐女子ブログです。
初めての方は「ハジメニ」を読んでください。わからずに突き進むと大変なことになります。
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感想、誤字脱字、その他管理人に突っ込みたい方は最下部のメルフォからか、↓の☆を@に変えてお願いします。
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管理人:流離
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更新停止中。twitterで色々妄想してます。
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