学園④－２

グラ刹♀で下の続き。
ハム大活躍？

「う・・・」


七時間目のベルが鳴り響いた後の廊下に生徒はいるはずもなく、刹那は一人よろ
よろと歩いていた。

沙慈かルイスに付いてきて貰えば良かったと軽く後悔したが、マイスターたるも
簡単に人を頼ってはいけない。



なんだ、この痛みは・・・



朝から断続的に続いていた下腹部のズクズクとした痛みは背中にまで周り、歩く
のも億劫な程に達している。


少年兵の時に、一通りの痛みには慣れたはずだった。それこそ腕が吹き飛びかけ
たり、銃弾に撃ち抜かれたこともある。

だが、健康状態が優良なのに体が痛むのは今までなかった。しかも、内部から激
しく。



内臓器系統の病気か？

一瞬そう考えて、目の前が暗くなる。

外的なもの以外には目立った病気などしたことのない刹那にとって、今のこの状
況に関する知識はないに等しかった。

もし、これが危険な病気だったら

もし、長期の入院が必要なものだったら。

ネガティブな思考は坂を転がるように悪化し、最悪の結論に導く。




マイスターを、下ろされるかもしれない




いやだっ

頭を振る。

ここまで、ここまでやってきたというのに。クルジスの戦場から、脇目も振らず
のしあがってきたのに。




いやだ

それだけはいやだ・・・！


折角手に入れた居場所なのに！！






「ミスセイエイ？」


聞き慣れた声がした。

はっと顔を上げると、普段なら忌々しいとしか思えない端正な容姿が見える。
いつもなら自信に満ちているエメラルドの瞳が、少しばかり見開かれていた。



こんな時に・・・！


反射的に睨みつけようとするが、頭が朦朧として力が入らない。

それどころか、彼を見た瞬間体の血が全て地に落ちるような感じがして、

視界が一瞬真っ白になった。

途端に膝の力が抜けて、廊下に崩れ折れそうになる。


「刹那っ！」



だが固い床に膝をぶつける前に、グラハムのしなやかな手が伸び支えてくれた。
確かに軍人らしい、無駄に良い反射神経だ。



「・・・触れるな・・・」


「それどころじゃないだろう！」



多少上ずった声にびくりとし、思わず口をつぐむ。

額に彼の手が当てられ、そこだけやけに熱く感じた。
ああ、違う。自分の体温
が異常に低いのか。



「失礼」

「っ・・・！？」

ふとももに手が回され、一瞬ビクリとする。

不意に体が持ち上がるのを感じた。

窓に現在の状況が映る。一般的に言う、お姫様だっことやらを刹那はされていた
。




「なっなにを・・・！」

「失礼だといった。」

「・・・おろせ・・・！」

「私は困っているレディを放って置くほど廃れてないのでね」



それだけ言ってグラハムは刹那を軽々と抱えたまま走りだした。



校内であるという羞恥心で抵抗してみるものの、普段の余裕が削ぎ落とされた、
有無を言わせない低い声に刹那は黙るしかなかった。





脳に血が回らなくて、次第に朦朧としてくる意識。

聞こえるのはよく響くテンポの早めな靴音と、まの抜けた教師の声と、カリカリ
と小さな鉛筆の音。


・・・もう、どうにでもなれ


リズミカルに動く腕の中、僅かに残っていた警戒心も消えて刹那はそっと目を閉
じた。





彼の手の熱さが、存外悪くないと思ってしまうのは貧血のせいだろうか。