advent 後

後編が遅くなってしまってすみません。
イブものなのにおそくなってしまってすみません･･･！
あとタイトルが思いつきだったので変更。

「全く失礼だ」
「どっちがだ」

憤慨した様子で正座をし、世話しなく羽を揺らす男を護身用の木刀を持ちつつ仁王立ちになって見下す女子高生。
一体どんな状況だと溜め息をつきたくなったが、「折角君のためにきたというのに」とぐちる男に眦をつり上げる。

「俺に不審者の知り合いはいない」
「不審者ではない！私は天使だ!」

抗議するように羽をばさばさと揺らす男に「羽が散るからやめろ」と木刀で制しつつ、刹那はろくでなしの養父でもいいからと心の中で助けを求めた。
確かに金髪碧眼、おまけに立派な純白の羽根を生やしている男は天使に見えなくない、むしろ天使にしかみようがない。
しかし現実には存在するはずもないものとして認識していたそれが部屋に何故かいて、突然抱きついてきたのだ。
しかもまさしく天使のような容姿だというのに、古風な喋り方なのがまたおかしい。

「…あんたが百歩譲って天使だということは認めよう。それで、天使が何故俺の部屋にいる？」
「決まっているじゃないか！」
天使は羽を揺らすと、胸を張って高らかに告げた。
「今宵は聖夜、イエス・キリストが生まれ落ちた日…」
「宗教の勧誘なら間に合っている」
「君が無宗教主義者なのは熟知している。私が天から与えられた使命は孤独な魂を救うこと…君の願いを叶える為に来たのだよ！」

胡散臭そうに目を細めた瞬間に、刹那は手を握られる。
天使のくせに、その手は刹那の手よりも熱かった。

「･･･は？」

我ながら間抜けな声をあげてしまう。
しかし目の前の天使はいたって真顔で、綺麗な翠玉の瞳はそらされることもなく向け続けられた。

「君は家族がいないらしいね」
「･･･」
「クリスマスだというのに家族もおらず、一人でこの寒い夜を過ごすのだろう？」
「！･･･余計なお世話だ!!」

両親がいないのは慣れている。それにあの養父と一緒に暮らすなんて考えたくもない。
一人でいることは自らが望んだことなのだ。
それを見ず知らずの怪しい、それも自称天使に、哀れまれる筋合いはない。
捕まれる手を振り払おうとするが、存外強い力でその掌を包まれていた為、思ったように振り払えない。

「･･･いい加減にしろ！！出て行かないと警察に･･･!!」

それでもムキになって振り払おうとすると、羽根がふさりと広がった。そして二人ごと包み込むようにやわらかな白い羽根が身体に当たる。

「天は君の本当に欲しいものを知っている」
「･･･?!」

羽根に包み込まれるような形で暗く寒い部屋から隔離され、刹那はグラハムに抱きすくめられていた。

「本当は欲しかったのだろう？ホワイトクリスマスを共に暮らす家族を」

そんなことない。
そう反論しようとするも、身体に当たる羽根やグラハムの手は暖房をつけただけの空っぽの部屋にいるよりも温かくて。
そういえば、久しぶりの人（正確に言えば天使）の温もりに触れた。
気付いたら抵抗しようとしていた手は力を失い、刹那の学生服よりよほど薄着の天使のシャツ一枚を羽織っただけだというのに身体を預けていた。

「だから私が使わされたのだよ」

絵画の御使いのような、慈愛に満ちた笑みを浮かべて、天使は戸惑いながらも成すがままになっている少女の小さな背中を慈しみを込めて撫で続けた。






advent

聖夜に舞い降りた奇跡。
久しぶりで誰かと食べたケーキは胸焼けがするほど甘く、そして少ししょっぱかった。




「所で、お前は家族になるといったな」
「ああ、勿論だとも！そのために私は来たのだから」
「･･･ずっといるつもりか？」
「家族だから当たり前だろう！」

そういって強調するかのように羽根をばさばさとふるわせ、口に生クリームをつけた青年天使に、部屋に無数に積もった羽をみて、せめて掃除くらいは彼自身にやらせようと心に誓うのだった。





本当は家族＝子作りでピーをしたら羽根が落ちて人間に堕落とかかんがえてましたがやめました。