me me she

とある曲を聴いたらとっさに書いていた突発文。
久々のニル刹です。刹那と誰かが結婚してます。
ちょっと電波です。

手術中、のサインはまだ消える様子がなく赤いランプが煌々と輝いていた。
あの扉の向こうにいる彼女はきっと苦しんでいるのだろう。男には想像の絶する痛みの中、一人で。
しかし刹那の頭にあるのは彼女の顔でも、生まれゆくまだ顔のわからぬ子供でもなく、一つの約束だった。
父親失格だと理解しつつも、その約束が忘れられず掌を力強く握った。




100歳になっても俺達は一緒だ。
そう言って、彼は長い指を伸ばしてきた。
普段は年長者ぶっているくせに、唐突に子供じみた変なことを言ってくる奴だった。
ナノマシンの普及によって100歳以上生きることは簡単にはなっていたが、脳細胞の死は避けられない。
…ぼけないで生きられるのか？
そう呆れたような目で見れば、俺が先にぼけるの確定かよ、と彼は情けない顔をした。
ぼけてもお前だけは離さないよ。
そう茶目っ気をこめ笑ってくる彼に再び呆れ、ぼけても離れようとしない彼の老いた姿を想像して、あながち洒落にならないと刹那は思った。
CBとして戦う以上いつ命を散らし、またいつ咎を受けるかわからない状態に身を置いている以上、100歳生きるなんて無理な話だとわかっていた。
しかし笑う彼の口元とそれとは反対に真摯な湖色の瞳を向けられ、なんとなく俺とこいつは100歳になっても一緒なのだろうと思ってしまったのだ。
絡み合う彼の白い小指と、褐色の自分の小指。
しかし約束は一年も守られなかった。
彼は、自分の目の前で散ってしまったのだから。
あと99年、あまっていた。



残されたのは、自分のかさついた小指。
あのときの温かさは忘れられず、そこがじゅん、と熱くなる。
約束は、破られたのか、それとも自分だけでも守るべきなのだろうか。
せめて、さよならと言って欲しかった。
約束破棄の仕方を。
でも本当は知りたくない。
お互い生きて、約束を果たして―…




その時、分娩室の扉が開かれ薄暗い廊下に眩い光の筋が出来た。
看護婦のさし迫った声に、刹那は腰を浮かせる。
機器の音と、それを掻き消すくらいに苦しげな彼女の唸り声。
看護婦に促され刹那は走り出す。
そして分娩台で苦しみ硬直する彼女の小さな掌を握った。

刹那が励ますように彼女の掌を握りしめると、それまで脂汗を流し歯を食い縛っていた彼女が、ふ、と小さく微笑んだ。
くたり、と手の硬直がとける。慌て刹那が支えるように両手で包み込むと、耳をつんざく鳴き声が聞こえた。
アラームとも違う、高い声。
息を思い切り吸い込み、泣き叫ぶ命の始まりの声。
男の子ですよ。
看護婦が祝福の笑みを浮かべ、手際よくへその緒を切りその小さな赤い塊を真っ白な布で包み込み母となった彼女に手渡してきた。

あ…

待ち望んでいた命に彼女は涙を浮かべ、我が子を抱き締める。
刹那は初めて見た自らが生み出した命に感動を通り越しただ驚き見つめていると、赤子がふと泣き止んだ。
赤子が小さな手をのばしてくる。
刹那とは比べようがないくらい小さな、それでももうしっかりと爪のついた手を。
そして、きゅっと刹那の小指を握ったのだ。

あー

赤子が泣く。何かを言いたげに。
まだ目も開かぬはずの赤子が、閉じられたしわくちゃの瞼で此方に顔を向けた。
そして、驚く程力強く刹那の小指を握りしめた。

刹那は理解した。
この子供は、刹那と彼女だけではない遺伝子の欠片があることに。
とても会いたかった、あの人の。


「ニール」

そう呼び掛けると、赤子は満足したかのように顔をさらにしわしわにさせ泣いた。
肯定するかのように力強く、再会を喜ぶ鳴き声を。

彼女は最初そんな親子のやり取りを不思議そうな顔で見つめていたが理解したのか顔を歪ませ、子供を抱き締める。
彼女の翡翠の瞳から、雫がこぼれ落ちた。
この子は彼女の瞳に近い、…そしてどこか彼に似た青緑にちがいない。そう刹那は確信していた。
ニールは約束を破らなかった。
数年間刹那を待たせたが、戻ってきた。このような形で。

「ありがとう」

数センチしかないふにゃふにゃした小指に、自らの指をそっと触れさせた。


「ニール」

さようなら、恋。
そして君に、ありがとう。






RADWIMPのme me sheからなんか思いついた話。
要するにニールが生まれ変わってきたよ！な話です。多分ニールそっくりの子供になるかと。
ちなみに彼女＝フェルトで書いてみたのですがご想像にお任せします。
RADは初めて聞いたけどいい曲ですね～･･･ジェニファーやまだとか。